神の子イエスがユダヤのベツレヘムに降誕された頃、ユダヤ地区はヘロデ大王(右挿絵)によって統治されていた。
あるとき、ヘロデ大王の下へ、東方から占星術の学者たちが訪れてこう言った。
「ユダヤ人の王としてお生れになったかたは、どこにおられますか。わたしたちは東方でその方の星を見たので、拝みにまいりました」(マタイによる福音書2章1-2)
下の絵画は、19世紀フランスの画家ジェームズ・ティソ(James Tissot/1836–1902)による1894年頃の絵画「マギの旅」。隊列を組んで進む東方三博士(マギ)の姿が描かれている。
偉大なるヘロデ大王を差し置いて、新たにユダヤ人の王が生まれるとの知らせとあっては、大王も心中穏やかではなかった。
そこで大王は、祭司長・律法学者たちを全員集めた上で、その「ユダヤ人の王」とはどこに生れるのかと、東方からやってきた博士らに問いただした。
彼らは答えた。「それはユダヤのベツレヘムです」
(マタイによる福音書2章3-5)
星に導かれ聖母マリアの下へ
王宮を出た三博士(マギ)らの頭上には、彼らが東方で見た星が輝いていた。星は彼らより先に進んで幼な子のいる所まで行き、その上にとどまった。そこはベツレヘムの聖母マリアらの居場所だった(いわゆる「ベツレヘムの星」)。
この絵画は、バロック期の画家ルーベンスによる1609年の作品「東方三博士の礼拝(マギの礼拝)」。ルーベンス初期の最高傑作の一つで、マドリードのプラド美術館所蔵。ミケランジェロを思わせる劇的な肉体描写、豊かな色彩、大人数による画面構成などの圧倒的な表現が施されている。
贈り物を捧げた三博士
聖母マリアと幼な子の前でひれ伏し、礼拝を捧げた三博士。青年の姿のメルキオールは黄金を、壮年の姿のバルタザールは乳香(樹脂の一種)を、老人の姿のカスパールは没薬(樹脂の一種)を、それぞれ贈り物としてささげた。東方三博士の礼拝は、後の公現節(こうげんせつ Epiphany)の起源の一つとされている。
まったくの余談だが、日本のテレビアニメ・劇場版「新世紀エヴァンゲリオン」において、特務機関NERV(ネルフ)本部などに設置される有機コンピュータ「MAGI(マギ)」は、メルキオール(MELCHIOR)、バルタザール(BALTHASAR)、カスパー (CASPER) という3つの独立したシステムが採られており、福音書の東方三博士から影響を受けたものと思われる。