3歳の時から神殿へ預けられ、身も心も清く正しく育ったマリア(聖母マリア)は、14歳の時(または12歳、諸説あり)、天使のお告げにより、主がみしるしを与えた者を夫とすることとなった。
天使は神殿の大司祭にこう伝えていた。「国中の独身者に一本、杖を持たせて集めよ。杖の先に花の咲いた者がマリアの夫だ」。こうして選ばれたのがダビデ家の子孫で大工のヨセフ(ナザレのヨセフ)。ヨセフは司祭の前でマリアの手に結婚指輪をはめ、二人は夫婦となった。
上の画像は、ルネサンス(マニエリスム)期に活躍したイタリアの画家ロッソ・フィオレンティーノ(Rosso Fiorentino/1495-1540)による1523年の作品「聖母マリアの結婚」。フィレンツェのサン・ロレンツォ聖堂に所蔵されている。
フィレンツェ出身のロッソ・フィオレンティーノによる作品には、反自然主義的な鮮やかな色彩と奇抜なフォルムが特徴として見られ、初期のマニエリスム美術を代表する画家の一人とされている。
ロッソ・フィオレンティーノ「聖母マリアの結婚」の中では、中央に司祭、向かって右側に杖を持ったナザレのヨセフ、そして左側にはアトリビュートの青い服を着た聖母マリアが描かれている。
ヨセフの手前で黒いローブを着た男性が右手の人差し指で上の方向を指さしているが、これは二人の婚約の様子を指さしているのではなく、天の方向を指さすことで主イエス・キリストを暗示していると思われる。
天使ガブリエルも? 受胎告知を暗示か
右下の女性は、天の慈愛を象徴する赤い腰布(ローブ)を身につけ、右手には聖書と思われる書物が開かれた状態で描かれているが、これは「聖母マリアの結婚」の後に続く聖書上のストーリー「受胎告知」で登場する天使ガブリエルを彷彿とさせる。
さらに、この女性の背中の部分をよく見ると、すぐ後ろで白い衣服をまとった男性の足の部分(?)がちょうど天使の羽根のようにも見え、しかもちょうど「受胎告知」と同じく聖母マリアにひざまずいて向き合うような位置関係にあることから、開いた聖書を持ったこの女性は天使ガブリエルの暗喩である可能性は高そうだ。