「種まく人」は、19世紀フランスの画家ミレーによる1850年の作品。岩波書店のシンボルマークとして有名。農家の生まれであるミレーは、幼い頃見た父の働く様子を思い出しながらこの「種まく人」を描いたという。
ミレーの絵画「種まく人」は、ほぼ同じ構図の2つの作品が存在する。1枚はボストン美術館、もう1枚は山梨県立美術館に所蔵されている。2つの絵は細部まで酷似しているが、ボストン美術館の絵の方が人物の輪郭線がはっきりしている。
これに対し、山梨の絵は絵具が厚塗りで筆使いが荒々しく、背景の黄色が目立つのが特色。いずれの作品も優劣はつけがたい名作。
ミレー「種まく人」とイエスの教え
イエスは庶民に教えを説く際、難しくて分かりにくい難解な教義ではなく、日常の身近な事物や出来事を題材とした「たとえ話」を用いている。
悔い改めた「放蕩息子のたとえ」、「十人の乙女のたとえ」などいくつかあるが、その中の一つに「種をまく人のたとえ」という説話がある。
ミレー「種まく人」は、このイエスの教えと関連付けて解釈されることがあり、その場合、「種をまく人」はイエスを暗示する人物となり、「種」はイエスの言葉・教え、種がまかれる「土地」は、イエスの教えを聞く者の心の態度を表していることになる。
「種をまく人のたとえ」は、マタイ福音書、マルコ福音書、ルカ福音書などに関連する記述があるが、ここでは参考までにマタイ福音書13章のたとえ話をご紹介しておきたい。心を開いて言葉を受け入れる者(良い土地)にのみ、イエスの教えは実を結ぶという教えである。
マタイ福音書13章のたとえ話
イエスはこう言われた。
「見よ、種まきが種をまきに出て行った。まいているうちに、道ばたに落ちた種があった。すると、鳥がきて食べてしまった。
ほかの種は土の薄い石地に落ちた。そこは土が深くないので、すぐ芽を出したが、日が上ると焼けて、根がないために枯れてしまった。
ほかの種はいばらの地に落ちた。すると、いばらが伸びてふさいでしまった。
ほかの種は良い地に落ちて実を結び、あるものは百倍、あるものは六十倍、あるものは三十倍にもなった。耳のある者は聞くがよい」。