レオナルド・ディカプリオ主演による1997年公開の映画「タイタニック(Titanic)」では、ケイト・ウィンスレット演じるヒロインが、タイタニック号の船首付近で両手を広げたポーズを取るシーンがある。
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ウィキペディア日本語版における「サモトラケのニケ」の解説(2020年11月時点)を見ると、映画「タイタニック」との関係が次のように指摘されていた。
アメリカ映画『タイタニック』(1997年)で、ヒロインがタイタニック号の甲板先端で両手を広げたポーズを取るのは、船の舳先に立つニケの真似事。
<引用:ウィキペディア日本語版「サモトラケのニケ」より>
「サモトラケのニケ」とは、ルーヴル美術館所蔵の古代ギリシャ彫刻(下写真)。台座は船(古代の戦艦)。
写真:サモトラケのニケと船の台座(ルーヴル美術館所蔵/出典:Wikipedia)
「船の舳先に立つニケの真似事」というウィキペディアの解説を裏付ける客観的資料は何も示されていなかったが、映画「タイタニック」と女神ニケは、ただ単に彫刻「サモトラケのニケ」の見た目だけのつながりではない。
タイタニック号と女神ニケと結びつきについて、ギリシャ神話の視点から簡単に補足してみたい。
ギリシャ神話とタイタニック
「タイタニック(titanic)」は、英語の形容詞としては「巨大な」を意味し、その語源はギリシャ神話のティーターン(ティタン/タイタン)族に由来する。
ティーターンは、ギリシア神話の天空神ウーラノスと地母神ガイアの間に生まれた神々の兄弟姉妹を指す(ティーターン十二神)。巨大な体を持つとされる。
ティーターン十二神の一人で長兄に当たる海神オーケアノス(オケアノス)は、3000もの娘をもうけたとされる。英語で大洋を意味する「ocean (オーシャン)」は、オーケアノスのラテン語名「Oceanus」が語源。
オーケアノスの娘の一人に、冥府を流れる大河の神ステュクス(スティクス)がいた。
ステュクスの水に体を浸すと不死の体となるとされ、英雄アキレウス(アキレス)は赤ん坊の頃にこの水に浸されたが、踵(かかと)だけ浸し忘れ、後に弱点となってしまった(アキレス腱のルーツ)。
海神オーケアノスの孫娘ニケ
海神オーケアノスの娘ステュクスは、ニーケー、クラトス、ゼーロス、ビアーの4人の子供をもうけた。このうちの一人「ニーケー」が、上述の彫刻「サモトラケのニケ」のモチーフとなった勝利の女神ニケ。
つまり、女神ニケは海神オーケアノスの孫娘であり、海の神である祖母の血を受け継いだ海の女神でもあるということが言えるだろう。
彫刻「サモトラケのニケ」では、海戦の勝利を祝うべく、古代の戦艦の舳先(へさき)に降り立った女神ニケの姿が表現されている。
ティーターンを語源とする「タイタニック号」を題材とした海の映画のワンシーンで、ティーターン一族の女神ニケがネタ元になるのは、こうしたギリシャ神話における血筋のつながりが隠れた理由だったのである。
サウサンプトンの銅像がネタ元?
実は、映画『タイタニック』での船首のシーンは、イギリスのサウサンプトンにある公園内の銅像が直接のネタ元になっている可能性が高い。
サウサンプトン(サウスハンプトン/Southampton)とは、イギリス南部の港町であり、沈没した豪華客船タイタニック号が1912年4月10日にニューヨークへ向けて処女航海に出発した港である。
1913年、タイタニック号沈没事故の犠牲者を追悼するため、サウサンプトンのイーストパーク内に「タイタニック・エンジニア・メモリアル(記念碑)」が建立された。除幕式には10万人を超える市民が訪れたという。
写真:タイタニック・エンジニア・メモリアル(出典:Wikipedia)
記念碑の中央には、タイタニックの舳先に立つ女神ニケの銅像が配置されている。その足元にいるのはタイタニック号のエンジニア(機関士ら船舶技術者)。
写真:タイタニックの舳先に立つ女神ニケの銅像(出典:Wikipedia)
この銅像の姿はまさに、映画「タイタニック」(1997年)で、ヒロインがタイタニック号の船首で両手を広げるシーンそのもの。この銅像のイメージが、映画のネタ元になっている可能性が高いと考えられる。
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