受胎告知 エル・グレコ

雲に乗って現れた天使ガブリエル 天上のオーケストラも

エル・グレコの絵画「受胎告知」は、その名のとおり新約聖書における有名な受胎告知のシーンを描いた宗教画作品。

ある日聖書を読んでいた聖母マリアの下へ天使ガブリエルが降臨し、聖母マリアが聖霊によって神の子イエスを身ごもることを告げていく場面が描かれる。

複数の受胎告知 日本の大原美術館にも

エル・グレコは同じ「受胎告知」のテーマで、構図や彩色、細部の描写などが異なる複数の作品を残しており、そのうちの一点が岡山県倉敷市の大原美術館に所蔵されている。

日本の洋画家・児島虎次郎(こじま とらじろう/1881–1929)が1922年にパリの画廊で見つけたエル・グレコの「受胎告知」作品で、法外な値段ではあったが、スポンサーの大原孫三郎による協力が得られ、見事買い付けに成功したという。現在、この作品が日本にあることは奇跡であるとさえ言われているという。

ちなみに、スポンサーの大原孫三郎は、倉敷市の大地主で倉敷紡績(クラボウ)を営む大原孝四郎の三男で、現在のクラレや中国電力の前身を設立するなど、大原財閥を築き上げた地元経済界の重鎮。大原美術館は1930(昭和5)年に孫三郎氏によって設立された。

上の作品が、大原美術館に所蔵されているエル・グレコ「受胎告知」。一見して分かる通り、他の画家が描いた数多くの「受胎告知」とは異なり、向かって左側に聖母マリア、右側に天使ガブリエルが配置されている。

落ち着いた表情の聖母マリア

左側の聖母マリアは左手で読みかけの聖書のページを押さえつつ、右手で驚きの感情を表す仕草を見せているように思われるが、その表情は実に落ち着いており、天のお告げに恭順の姿勢を見せた段階の心境のようにも見える。

読みかけの聖書について、一体どこを読んでいたのか?との興味をもたれた方は、レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」の解説を別途参照されたい。

頭上に十二の星の冠

聖母マリアの頭上の星の冠(かんむり)は、「聖ヨハネの黙示録」第12章の記述が元になっており、他の画家による聖母マリア像でも頻繁に見られる図像の一つ。

「それから、壮大なしるしが天にあらわれた。太陽に包まれた婦人があり、その足の下に月があり、その頭に十二の星の冠をいただいていた。」

<聖ヨハネの黙示録 第12章より>

雲の上の天使ガブリエル

天使ガブリエルは他の作品ではひざまずいた姿勢で描かれることが多いが、このエル・グレコによる「受胎告知」では、天使は雲の上に乗っており、天界から降臨した御使いであることが明示されている。

右手の二本の指を軽く立てた状態は、聖母マリアへの祝福の意を示すサインであり、レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」においても同様の描写が見られる。

中央の鳩は、聖母マリアが純潔を保ったまま聖霊により神の子イエスを身ごもったことを示しており、スペインの画家ムリーリョによる「受胎告知」をはじめ、他の画家による作品にも頻繁に描かれる。

エル・グレコによるその他の「受胎告知」作品は?

実に紛らわしいのだが、大原美術館所蔵のエル・グレコ「受胎告知」とほぼ同じ構図で同じ寸法の作品が 、他にもハンガリーの首都ブダペストの国立西洋美術館と、アメリカ・オハイオ州のトレド美術館にも所蔵されている。

1986年に国立西洋美術館で開催されたエル・グレコ展では、この3点が揃って紹介されたという。見分け方としては、大原美術館所蔵の「受胎告知」のみが、聖母マリアの頭上に十二の星の冠を描いているという点が挙げられる。

その他の構図や寸法のエル・グレコ「受胎告知」作品については、Wikipedia英語版やその他のネット上の情報を集約すると、だいたい次のような作品群が確認できるようだ。参考までにご紹介したい(真偽は未確認。各自で研究・確認されたし)。

スペイン・マドリードにあるプラド美術館(Museo del Prado)蔵。画布・油彩。両手で驚きを表す聖母マリア。天使たちが奏でる天上のオーケストラにも注目。この構図の作品も複数存在する。

マドリードのティッセン=ボルネミッサ美術館(Thyssen-Bornemisza Museum)蔵。 胸に手を当てて胸騒ぎを感じる聖母マリアの心境が表現されている。表情もどことなく不安げ。この構図とほぼ同じ作品も複数存在する。

 

イリェスカス、カリダー施療院(Hospital de la Caridad, Illescas/カリダード施療院)蔵。礼拝堂の祭壇画として製作された。聖母マリアが右側、天使ガブリエルが左側の一般的な配置。花瓶には聖母マリアの純潔をあらわす白百合が描かれている。

他の画家による宗教画「受胎告知」

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