神の子イエスを処女懐胎した聖母マリアのもとへ、天使ガブリエルがお告げに訪れる有名な聖書の一場面を描いたルーベンス「受胎告知」。
数多くの宗教画・歴史画を残したルーベンスは、アニメ「フランダースの犬」最終回で登場した「聖母被昇天」や「キリストの降架」以外にも様々な宗教画作品を残しており、この「受胎告知」を題材とした絵画についても異なる構図の複数の作品を残している。
ウィーン美術史美術館(Kunsthistorisches Museum)蔵のルーベンス「受胎告知」。天使ガブリエルは体格のがっしりとした青年の姿で描かれ、エル・グレコ「受胎告知」と同じく右側に配置されている。聖母マリアは左手で読みかけの聖書のページを押さえ、右手で驚きの仕草を見せている。
こちらはルーベンスハイス(ルーベンスの家)美術館に所蔵されているルーベンス「受胎告知」。人物の配置は、他の画家による一般的な「受胎告知」と同じく、左側が天使ガブリエル、右側が聖母マリアとなっている。
こちらの天使ガブリエルは男性よりだが中性的な印象。聖母マリアは若干体を反らせて胸に手を当て、驚きと不安・胸騒ぎが入り混じった若干緊張した表情のようにも見受けられる。
聖書はどこを読んでいた?
ルーベンスの作品に限らず、新約聖書の受胎告知をテーマとした宗教画には、聖母マリアの傍らに開きかけの聖書がほぼ必ず描かれる。下の図は、ルーベンス「受胎告知」の2作品から、聖母マリアの手元を拡大したもの。いずれも聖書が開きかけの状態で書見台に置かれている。
この開きかけの聖書だが、聖母マリアは受胎告知を受けるその直前まで、聖書のどこの部分を読んでいたのだろうか?実はこの点については一般的な設定が存在し、聖母マリアは三大預言書の一つであるイザヤ書を読んでいたとされ、具体的には、預言者イザヤが神の子イエスの誕生を予言した箇所であったと説明されることが多いようだ。
「見よ、乙女がみごもって男の子を産み その子をインマヌエルと呼ぶ」
<イザヤ書77章14節>
ネコが受胎告知に登場?
ルーベンスハイス所蔵の「受胎告知」をよく見ると、キャンバス右下のカゴの横に、ちょこんと丸まって寝ているネコが描かれているのが確認できる。
なぜルーベンスは、「受胎告知」の絵画作品に可愛いネコを登場させたのだろうか?ただ単に「可愛いから」という理由で宗教画に猫を登場させることはないだろうから、恐らくこのネコも何らかの象徴であったり、何らかの言い伝えを踏まえた図像であることは間違いなさそうだ。
実は、他の画家による宗教画「受胎告知」にも、ルーベンスのようにネコが描かれる作品がいくつか存在する。猫と受胎告知(絵画作品)については、こちらの研究ページ「ネコと聖母マリア 受胎告知」にてある程度まとめてあるので、ご興味のある方は是非ご参照いただきたい。
【関連ページ】 ルーベンス 有名な絵画・代表作の解説
その他の有名な絵画「受胎告知」
- レオナルド・ダ・ヴィンチ「受胎告知」
- 白百合におしべ? そして開かれた庭
- エル・グレコ「受胎告知」
- 雲の上の天使ガブリエル 聖母マリアの頭上に十二の星の冠
- ムリーリョ、ボッティチェッリ「受胎告知」ほか
- 新約聖書の物語・ストーリーと合わせて