アダムとイヴより受け継がれし原罪、その汚れを一切受けることなく、母アンナの胎内に宿りし時より無原罪の存在として神の恵みを受ける聖母マリア。
その姿は宗教画「無原罪の御宿り むげんざいのおんやどり」、または「無原罪のお宿り」として、カトリック教会に関わりの深い世界の有名な画家たちによって描かれてきた。
ムリーリョ「無原罪の御宿り」 1660-1665
バルトロメ・エステバン・ムリーリョ「無原罪の御宿り」 1660-1665 プラド美術館
バロック期スペインの画家バルトロメ・エステバン・ムリーリョ(Bartolomé Esteban Perez Murillo、 /1617-1682)による作品。
バラやユリの花を持った幼い天使たちに囲まれた聖母マリアが、三日月を足下に青いローブ(マント)を羽織り天を見上げている。表情はあどけなく、純真無垢の白い衣服と合わせて、聖母マリアの処女性が強調された愛らしい雰囲気に包まれている。
ベラスケス「無原罪の御宿り」 1618
ディエゴ・ベラスケス「無原罪の御宿り」 1618
17世紀スペイン絵画の黄金時代を代表するディエゴ・ベラスケス(Diego Rodríguez de Silva y Velázquez/1599-1660)による作品。頭には星の冠を戴き、丸い月の上に乗ってローブをまとい、静かに祈りを捧げている。
【関連ページ】 エル・グレコ「無原罪の御宿り」 作品解説
星の冠や足下の月の意味は?
宗教画「無原罪の御宿り」では、頭上に星の冠、足元に月が共通の項目として描かれることが多い。これは、「新約聖書」における最後の書「ヨハネの黙示録」の一節が大きく関わっている。
「天に大きなしるしが現れた。一人の女が身に太陽をまとい、月を足の下にし、頭には十二の星の冠をかぶっていた」(黙示録12・1)。
この黙示録の記述に従い、「無原罪の御宿り」では月は足の下に、頭には星の冠が描かれるという。頭上の星については描かれない作品も見られるが、足元の月はどの作品にも描写されているように思われる。
右作品は、フランス印象派の画家ミレーによる「無原罪の聖母」。
ザクロの意味は?
聖母マリアと共に多くの作品で描かれるザクロの実。花言葉は優美、円熟した優美、優雅な美しさ。学名は「プニカ・グラナトゥム(Punica granatum)」で、ザクロの木が多く植えられていたスペインのグラナダ(Granada)の名前の由来となっている。
ザクロの実はキリスト教では「再生」や「不死」の象徴、そして聖母マリアの「純潔」のシンボルとして描かれるほか、数多くの種子が一つの実に内包されていることから、多くの異なる文化・民族を一つに抱合する「キリスト教」そのものの象徴としても扱われるようだ。
ボッティチェッリ「ザクロの聖母」 1487 ウフィツィ美術館
百合と薔薇の意味は?
ムリーリョやエル・グレコ作の絵画「無原罪の御宿り」でも描かれている赤い薔薇(バラ)と白い百合(ユリ)の花。
赤いバラは古代ローマにおいて「ヴィーナスの花」とされ、満開の母親の性を表しており、キリスト教徒では聖母マリアに結びつけられ、彼女を「聖なる薔薇」と呼んだ。その赤い色は、マリア・マグダレナの血の涙の色ともされる。
白い百合の花は、聖母マリアの清らかでけがれない愛、処女性の象徴として用いられている。
ロザリオの語源にも
ちなみに、アヴェ・マリア(天使祝詞) の祈りに用いられる十字架「ロザリオ rosario」は、「薔薇の花輪」を意味するラテン語「ROSARIUM ロサリウム」を語源としている。
カトリック教会では、バラを語源とするロザリオを用いて祈りを唱えることによって、聖母マリアに霊的なバラの冠を捧げる祈祷が行われる。