聖マウリティウスの殉教 エル・グレコ
フェリペ2世に拒まれた奇抜な構図と非現実的な色彩
ハプスブルク家のスペイン王フェリペ2世(Felipe II/1527-1598)からエル・エスコリアル修道院の聖堂を飾る祭壇画を依頼されたエル・グレコ。
宮廷画家への抜擢を目指して取り組んだテーマは、聖マウリティウスが率いるキリスト教徒らの軍団が異教の儀式を拒否したことで虐殺されたシーンを描いた「聖マウリティウスの殉教」。
製作期間は1580年から82年頃。完成させ作品を納入したが、奇抜な構図と非現実的な色彩が不評を買い、「祈る気をなくさせるような絵画ではダメだ」と完全に受け入れを拒否されてしまった。スペイン国王の信頼獲得に失敗したグレコは以後、宮廷画家としてのチャンスを失うこととなった。
天上のオーケストラとオリーブの冠
「聖マウリティウスの殉教」の地上部分は殺伐として残酷な描写も見られ、日本人には若干なじみのないテーマではあるが、その上空、つまり殉教者たちを迎える天上の世界では、雲間から神の威光が降り注ぎ、天使たちが厳かに魂を受け入れる準備を整えている。
画面左側には、エル・グレコによる他の作品でも登場する天上のオーケストラ・天使の奏楽隊が神聖なる音楽を奏で、その右側の天使はオリーブの葉で作られた冠を用意し、殉教者たちの魂を導かんとしている。