キリストの磔刑(槍突き)
ルーベンス
目を背ける聖母マリア 痛々しいロンギヌスの槍
十字架に磔(はりつけ)にされたキリストを主題としたルーベンスの宗教画作品と言えば、アニメ「フランダースの犬」でも大きく取り上げられた「キリスト降架」や、それと対となる「キリスト昇架」の2作品が特に有名だが、本ページでご紹介するルーベンス「キリストの磔刑」は、ストーリーの流れ的にその有名な2作品の中間に位置する絵画作品となる。
アントワープ王立美術館に所蔵されているルーベンス「キリストの磔刑(たっけい)」は、タイトル通り、ゴルゴタの丘で十字架にかけられ処刑されるキリストを描いた宗教画。上述の2作品との時間的流れで言えば、「キリスト昇架」→「キリストの磔刑」→「キリスト降架」の順に物語が描写されていることになる。
突き立てられるロンギヌスの槍
ルーベンス「キリストの磔刑」では、画面左側で馬に乗りキリストへ聖槍を突き立てている人物が描かれている。この人物はロンギヌスと呼ばれるローマ兵で、この槍は別名「ロンギヌスの槍」としても広く知られている。
ロンギヌスはイエスの生死確認のために槍を用いたと一般的に説明されることが多い。ロンギヌスは目が不自由(または弱視)だったようだが、伝説によれば、槍傷から噴き出した血が目に入ったことで神の奇跡が起こり、、彼の視力は回復したという。この奇跡で目が覚めたロンギヌスは、すぐにローマ兵をやめ、使徒らによる洗礼と教えを授かり、各地で布教に努めたという。
聖母マリアに寄り添うヨハネ 足元のマグダラのマリア
画面右下で顔をそむけ倒れかけている女性は聖母マリア。それを支えている赤い衣服の女性はイエスの弟子ヨハネ。洗礼者ヨハネとは別人であり、区別のために使徒ヨハネとも呼ばれる。
十字架にかけられた画面中央のキリストの横で、二人の強盗が同じく十字架にかけられている。キリストの足元で「これ以上はお止めください」と言わんばかりに両手をロンギヌスの方へ差し伸べているのは、「ダヴィンチ・コード」でも大きく取り上げられた聖女マグダラのマリア。
キリストが捕縛される前、キリストの足を涙で濡らし髪の毛で拭いたとされる「罪深き女」と同一視されたことから、キリストの磔刑に関連する宗教画においては、マグダラのマリアはキリストの足元に描かれることが多い。
なお、聖母マリア、使徒ヨハネ、聖母マリアの3人については、ルーベンス「キリスト降架」でもはっきりと描かれているので、比較しながら鑑賞されるとよいだろう。